中小企業のAI導入で気をつけたい
“著作権”と“情報漏洩”リスクとは?

攻めのAI活用を実現するために、経営者が今すぐ知るべき守りの知識

概要

本稿は、AI導入を検討する中小企業の経営者や意思決定者のために、見落とされがちな「著作権侵害」と「情報漏洩」という2大リスクを具体的に解説します。最新データと公的機関の見解に基づき、これらのリスクを回避し、AIを安全かつ効果的に事業成長へ繋げるための判断基準を明確に示します。

この記事の信頼性について

執筆者は、システムエンジニアとして20年、中小企業診断士として10年の経験を持っています。技術的な視点と経営的な視点の双方から、中小企業が直面するリアルな課題に基づき、本稿を執筆しています。

なぜ今、AIのリスク管理が重要なのか?

生成AIの進化は目覚ましく、多くの企業が業務効率化や新サービス開発のために導入を進めています。しかし、その裏側には重大なリスクが潜んでいます。特にリソースの限られる中小企業にとって、一度のトラブルが経営に深刻な打撃を与えかねません。 ある調査では、日本の中小企業におけるAI導入率は約5%に留まる一方、大企業では30%を超え、その差は開いています。この差は、単なる技術格差ではなく「リスクを正しく理解し、管理する体制」の差とも言えます。これから導入する企業だからこそ、最初の一歩でつまずかないための知識が不可欠です。

参照元:秋霜堂株式会社 調査データ(2024年) (2025年9月13日取得)

AI導入に伴う2大リスクの構造

AI利用におけるリスクは複雑に見えますが、中小企業が特に注意すべきは「情報漏洩」と「著作権侵害」です。これらのリスクがどのような原因で発生するのかを可視化しました。

情報漏洩の主な原因(中小企業)

情報漏洩は外部攻撃だけでなく、従業員の知識不足や社内ルール未整備といった内部要因が大きな割合を占めます。

参照元:IPA「情報セキュリティ10大脅威 2023」のデータを基に内部要因を分類 (2025年9月13日取得)

AIによる著作権侵害リスクの発生ポイント

AIの学習データと生成物の両段階でリスクが存在します。特に生成物が既存の著作物と類似してしまうケースに注意が必要です。

リスクの詳細と具体的な対策

リスク1:機密情報の「情報漏洩」

多くの生成AIサービスは、入力された情報をサービス改善のために"学習"する可能性があります。従業員が顧客情報や開発中の製品情報などを安易に入力すると、それが外部に漏洩したり、他のユーザーへの回答に利用されたりする危険性があります。

対策

  • 一部の法人向けAIサービスでは入力データを学習させない設定(オプトアウト)が可能です。ツールの利用規約やプライバシーポリシーを契約前に必ず確認しましょう。
  • 「顧客情報」「個人情報」「未公開の財務情報」など、AIへの入力禁止情報を明確に定義した社内ガイドラインを策定・周知する。
  • 従業員に対し、AIの仕組みと情報漏洩リスクに関する定期的なリテラシー教育を実施する。

リスク2:意図しない「著作権侵害」

AIが生成した画像や文章が、既存のキャラクターや他社のコンテンツと酷似している場合、意図せず著作権を侵害してしまう可能性があります。特に、マーケティング資料やウェブサイトで商用利用する際には細心の注意が必要です。

対策

  • 文化庁のAIと著作権に関する考え方についてを参考に、著作権侵害の要件(類似性・依拠性)を理解する。
  • AI生成物をそのまま利用せず、必ず人間の手で修正・加筆を加え、独自性を確保する。
  • 「〇〇(有名なキャラクター)風」といった、特定の著作物を想起させる指示(プロンプト)は避ける
  • 画像生成AIなどを商用利用する際は、類似コンテンツのチェックツールを利用したり、専門家に相談したりすることを検討する。

業務に活かすには

  • AI利用ガイドラインの策定:本日得た知識を基に、自社の状況に合わせたAI利用の基本ルールを作成する。まず「入力してはいけない情報リスト」の作成から始めるのが効果的です。
  • ツール選定基準の見直し:無料ツールだけでなく、セキュリティ機能や著作権保護(補償)を明記している法人向け有料プランを比較検討する。費用対効果(ROI)をリスク管理の観点からも評価する。
  • 全社的なリテラシー向上:経営層から現場まで、AIのリスクに関する共通認識を持つための勉強会を開催する。外部の専門家を招くことも有効な手段です。

あなたへの問いかけ

「効率化」の裏にあるリスク、貴社は見えていますか?
AIを「諸刃の剣」ではなく「最強の武器」にするための第一歩、踏み出せていますか?

経営・ITコンサルタントとしての私の意見

AIは画期的な技術ですが、その導入は「諸刃の剣」です。特に中小企業にとって、リスク管理の成否が事業の未来を左右します。ここでは、技術と経営の両面から見た、特に注意すべき3つのポイントを解説します。

1. 「入口」のリスク:AIの選定とデータ入力
最大のリスクは、機密情報をAIに入力する「入口」に潜んでいます。無料や安価なAIサービスは、入力された情報を学習データとして利用することが規約上の前提となっている場合が少なくありません。これは、適切な有料プランの選択や「学習させない」設定(オプトアウト)で回避可能です。また、データの保管場所やサービス提供元の国の法制度も、情報管理の観点から無視できない経営判断の要素です。

2. 「出口」のリスク:生成物の安易な利用
AIの生成物を鵜呑みにする「出口」にも危険が伴います。AIがもっともらしい嘘(ハルシネーション)をつくことは珍しくありません。また、生成された画像や文章が意図せず他社の著作権や商標権を侵害している可能性もあります。公開・商用利用前のファクトチェックと権利侵害の確認は必須のプロセスです。

3. 「人間」のリスク:従業員のリテラシーと社内体制
最終的にリスクを現実化させるのは「人」です。従業員の知識不足から、顧客の秘密情報をAIに質問してしまうケースは後を絶ちません。逆に、社内ルールが厳しすぎると、不満を持った従業員が個人の端末で無許可のAIを使い始める「シャドーIT」を誘発し、管理不能な情報漏洩を引き起こすことさえあります。実情に合ったルール作りと継続的な教育が不可欠です。

結論

中小企業にとって、AIは生産性を飛躍的に向上させる強力なツールです。しかし、その力を最大限に引き出すためには、「著作権」と「情報漏洩」のリスクを正しく理解し、管理することが不可欠です。AI導入を単なるIT担当者の問題とせず、経営課題として捉え、明確なガイドラインと適切なツール選定を行うことが、AI時代を勝ち抜くための重要な経営判断となります。守りを固めてこそ、攻めのAI活用が可能になるのです。

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