概要
AIによる記帳代行等の自動化が進む中、中小企業の経営者やエクゼクティブが税理士に求めるべき役割は大きく変化しています。本稿では、税理士を経営判断の質を高める戦略的パートナーとして再定義し、未来志向の協業の仕方や、自社に合った税理士の選び方が分かります。これにより、データに基づいた迅速かつ的確な経営判断を下すことが可能になります。
あなたの会社の税理士は、まだ「過去」を見ていますか?
AI-OCRやクラウド会計ソフトの進化により、請求書や領収書のデータ化、仕訳入力といった、かつては多くの時間を要した業務は急速に自動化されています。事実、野村総合研究所の分析では、税理士の定型的な業務はAIに代替される可能性が高いと指摘されています。
しかし、多くの経営現場では、未だに「過去の会計データ」をまとめることを税理士の主業務と捉え、月に一度、試算表を見て溜息をつくだけの関係に留まっていないでしょうか?AI時代における税理士との付き合い方は、企業の成長速度を左右する重要な経営課題なのです。
データが示す、税理士との新しい関係
AIの台頭は、税理士の役割を「事務作業」から「知的貢献」へとシフトさせています。経営者が本当に価値を感じるポイントはどこにあるのでしょうか。
経営者が税理士に「本当に」求めていること
多くの調査で、経営者は税務申告だけでなく、節税や未来の経営に関するアドバイスといった、より付加価値の高いサービスを税理士に期待していることが示唆されています。
クラウド会計の普及率
個人事業主の41.2%がクラウド会計を導入。リアルタイムでのデータ共有が、未来志向の対話を可能にします。
「守り」から「攻め」のパートナーへ
AI時代の税理士の役割は、従来の「守り」の業務から、経営を加速させる「攻め」の業務へと進化します。あなたの税理士はどちらの領域で貢献していますか?
守りの税務(AIが得意な領域)
記帳代行、給与計算、税務申告書の作成、年末調整など、正確性が求められる定型業務。これらはAIやクラウドソフトで効率化すべき領域です。
- 仕訳・記帳の自動化
- 単純な税務申告
- 過去データの整理
攻めの経営支援(新時代の価値領域)
リアルタイムの財務データに基づき、未来の経営判断を支援するコンサルティング業務。経営者の最も身近な相談相手としての役割です。
- 未来会計シミュレーション
- 資金繰り・融資コンサルティング
- 事業計画策定と予実管理支援
- 補助金・助成金の活用提案
明日からできる、付き合い方改革
- 月次ミーティングの議題を変える: 「先月の試算表どうでしたか?」という過去の質問から、「このデータを見ると、3ヶ月後の資金繰りはどうなりそうですか?」「来月の投資判断のために、どんな情報が必要ですか?」といった未来の質問に変えましょう。
- クラウド会計でデータを一元化する: 税理士と同じデータをリアルタイムで見る環境を構築しましょう。これにより、意思決定のスピードが格段に向上します。まだ導入していないなら、導入支援を税理士に相談するのも一手です。
- 「if-then」の相談をする: 「もし、新しい機械を導入したら、損益分岐点はどう変わりますか?」「もし、社員を2名増員したら、キャッシュフローへの影響は?」といった仮説ベースの相談を持ちかけ、経営のシミュレーションパートナーとして活用しましょう。
あなたへの問いかけ
あなたの顧問料は、未来への投資になっていますか?
それとも、過去の処理のためのコストになっていますか?
経営・ITコンサルタントとしての私の意見
弊社でもクラウド会計ソフトを導入して日々の管理を行いつつ、専門的な税務判断が必要な申告業務は税理士の方にお願いしています。確かに、クラウド会計を使いこなすには一定のITリテラシーや会計知識が求められる側面はあります。
私自身、財務会計の専門知識を持っていますが、複雑な税法解釈については、やはり税理士という専門家の知見が不可欠です。これは、経営者が事業戦略に集中し、税理士が税務の専門性を担うという、理想的な役割分担だと考えています。
一方で、IT化の流れの中で、税理士の先生方が従来の定型業務だけでは付加価値を出しにくくなっているのも事実でしょう。これからの時代に求められるのは、経営者との対話を深める「コミュニケーション能力」と、AI等のツールを駆使して新たな洞察を提供する「テクノロジー活用能力」の両輪だと感じています。
あなたの会社のパートナーである税理士は、未来の経営に繋がる新たな価値を提供してくれていますか?
結論
AI時代において、税理士との関係は、単なる業務委託先から「事業成長を加速させる戦略的パートナー」へと昇華させるべきです。定型業務はテクノロジーで効率化し、人間である税理士とは未来志向の対話を行う。この新しい付き合い方こそが、不確実性の高い現代市場を勝ち抜くための、賢明な経営判断の礎となるでしょう。