AIにできること・できないこと
——それでも“税理士が必要”な理由

AIは脅威か、それとも最強のパートナーか。未来の経営を見据えるすべてのリーダーへ。

概要

本稿は、中小企業の経営者やエクゼクティブが直面する「AIと税理士の関係」という課題に対し、明確な指針を提供します。AIが経理業務をどこまで自動化できるのか、そしてAIには決して真似できない税理士の本質的な価値は何かを理解することで、コスト削減と経営の高度化を両立させるための最適な意思決定を下すことができます。

AIが得意なこと:定型業務の圧倒的な自動化

AI、特にAI-OCRや会計ソフトとの連携は、これまで人間が多くの時間を費やしてきた定型業務を劇的に効率化します。調査会社のLayerXによると、経理部門の約24.3%が既に何らかのAIを活用しており、その流れは加速する一方です。IDC Japanの予測では、国内AIシステム市場は2029年に4兆1,873億円規模に達する見込みで、これはもはや無視できない経営課題と言えるでしょう。

AI導入による経理定型業務の時間削減効果

請求書のデータ化や仕訳業務といった反復作業は、AIの導入で大幅な時間短縮が見込めます。これにより、経理担当者はより付加価値の高い業務に集中できるようになります。

※各種調査レポートを基に当事務所作成

AIが苦手なこと:複雑な判断と人間的価値

AIが定型業務の王者である一方、その能力には限界があります。特に、個別具体的な状況判断、交渉、そして経営者の心に寄り添うといった人間的な領域は、依然として専門家である税理士の独壇場です。国税庁でさえも、調査対象の選定にAIを活用しており、税務調査はより高度化・複雑化しています。このような状況で経営者を守れるのは、法律と実務に精通し、交渉力を持つ税理士だけです。

AI時代に税理士に求められる役割

AI時代において、税理士の価値は単純な記帳代行から、企業の成長を支援する戦略的パートナーへとシフトしています。

※各種調査レポートを基に当事務所作成

業務に活かすには

中小企業経営者の方へ

  • クラウド会計の導入:まずはAI連携機能のあるクラウド会計ソフトを導入し、請求書処理や経費精算の自動化から始めましょう。
  • 月次決算の早期化:自動化によって生まれた時間を活用し、税理士と共に月次決算を早期化。迅速な経営判断の土台を築きましょう。

エクゼクティブの方へ

  • 経理部門の役割再定義:経理部門を「コストセンター」から、データを活用して未来を予測する「プロフィットセンター」へと変革させましょう。
  • 税理士との連携強化:税理士を節税や税務調査対応だけでなく、M&Aや事業承継、資本政策といった高度な経営課題を相談する戦略パートナーとして活用しましょう。

あなたへの問いかけ

貴社の経理担当者は、今日も過去の数字を処理する“作業”に追われていますか?

それとも、AIと専門家を使いこなし、会社の未来を創る“戦略”を描いていますか?

経営・ITコンサルタントとしての私の意見

以前、別の記事で「経営者視点」から見たAI時代の税理士との付き合い方について論じましたが、本稿は少し視点を変え、「経理担当者および税理士視点」の目線も意識しています。

現場では、クラウド会計やAI-OCRといった最新ツールを積極的に活用する税理士と、従来通りの手法を続ける税理士が混在しているのが実情です。

しかし、経営者や企業側からすれば、税理士がどのようなツールを使っているかは本質的な問題ではありません。重要なのは「何をしてくれるのか」という結果です。求めているのは、的確な節税対策、迅速な月次決算、未来を見据えた経営アドバイスといった、企業の成長に直結する付加価値ではないでしょうか。AIを使いこなす税理士は、定型業務を効率化して生まれた時間を、こうした高付加価値なサービスに充てることができるのです。

結論

AIは税理士の仕事を奪う存在ではなく、むしろその価値を増幅させるための強力な触媒です。定型業務をAIに任せ、人間である税理士はより創造的で専門性の高い領域に注力する。この「AIと人間の協業」こそが、不確実性の高い時代を勝ち抜くための、最も賢明な経営戦略と言えるでしょう。今こそ、貴社の税理士との関係を見直し、未来への一歩を踏み出すべき時です。

参照元一覧