概要
この記事は、新規事業の誘いを受けた経営者や意思決定者に向けて、AIを活用して賛成・反対両面の意見を客観的にシミュレーションする方法を解説します。AIを「思考の壁打ち相手」とすることで、自身の認知バイアスを乗り越え、より確度の高い経営判断を下すための具体的なステップが分かります。
その決断、本当に客観的ですか?
魅力的な新規事業の誘いは、経営者の心を躍らせます。しかし、その期待感から「この事業は成功するはずだ」という思い込みが先行し、自分に都合の良い情報ばかりを集めてしまう心理現象、「確証バイアス」に陥る危険性があります。
確証バイアスは、事業の潜在的リスクを見過ごす原因となり、時に致命的な経営判断ミスにつながります。人間である以上、このバイアスから完全に逃れることは困難です。そこで、感情や先入観を持たないAIを客観的な「参謀」として活用することが、現代の経営において極めて有効な一手となります。AIは、あなたが集めようとしない「不都合な情報」や「反対意見」も、データに基づいて冷静に提示してくれます。
新規事業の厳しい現実
新規事業への挑戦は尊いものですが、その成功確率は決して高くありません。まず、客観的なデータで現実を直視することが重要です。
新規事業の展開状況(推定値)
中小企業白書のデータを基に試算すると、新規事業を展開し、最終的に経常利益の増加まで繋がった企業は約14%と推定されます。
AIによる意思決定の変革
AIの活用は、意思決定の質を大きく向上させる可能性を秘めています。Notta社がまとめた調査データによると、多くのビジネスリーダーがAIの能力に期待を寄せています。
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41%のリーダーが、AI技術が意思決定能力を向上させると信じている。
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79%が、AIを活用する新しい組織が市場に参入すると予測している。
AI壁打ちシミュレーション:3つのステップ
AIに以下の3ステップで問いかけることで、賛成・反対両面の意見を引き出し、多角的な視点を得ることができます。
Step 1: 賛成意見(楽観シナリオ)の深掘り
まず、事業の成功可能性を最大限に引き出すための視点をAIに問いかけます。これにより、事業の強みや市場機会を明確に言語化できます。
プロンプト例:「この新規事業計画について、最高のシナリオ(ベストケース)を想定してください。その際に考えられる市場の反応、競合の動き、そして我々が享受できる最大のメリットを5つ、具体的な根拠と共に挙げてください。」
Step 2: 反対意見(悲観シナリオ)の抽出
次に、意図的に批判的な視点をAIに求めます。自分では気づきにくい、あるいは目を背けがちなリスクや弱点を炙り出すことが目的です。
プロンプト例:「この新規事業計画について、最悪のシナリオ(ワーストケース)を想定してください。内部要因・外部要因に分け、失敗に至る可能性のあるリスクを5つ挙げてください。特に、経営陣が見落としがちな盲点を重点的に指摘してください。」
Step 3: 多角的ペルソナによる意見聴取
異なる役職や立場の視点をAIにシミュレートさせることで、より解像度の高いリスク分析が可能になります。
プロンプト例:「あなたは非常に慎重なCFO(最高財務責任者)です。この事業計画を見て、財務的観点から最も懸念する点を3つ挙げ、それぞれについて厳しい質問をしてください。」
「あなたは顧客サポートの現場責任者です。この新製品がリリースされた後、顧客から寄せられそうなクレームや批判を予測し、トップ5を挙げてください。」
業務に活かすには
- 投資判断会議での議論促進:AIが生成した賛成・反対意見をアジェンダとし、議論の偏りをなくし、より深いリスク検討を促す。
- 事業計画のブラッシュアップ:AIが指摘した弱点やリスクを事業計画に反映させ、計画の精度と実現可能性を高める。
- 提携先・出資者への説明責任:「AIを用いて多角的なリスク分析も実施済みです」と示すことで、意思決定プロセスの客観性と信頼性をアピールできる。
あなたへの問いかけ
その胸を躍らせる事業案、あなたの「直感」は正しいかもしれません。
しかし、その直感を「確信」に変えるため、AIという客観的な参謀と一度、対話してみませんか?
経営・ITコンサルタントとしての私の意見
「あなたには絶対向いているよ!」「一緒にこのビジネスをやらないか?」—。親しい知人からのこうした魅力的な誘いに、心が揺れた経験はありませんか。私自身も、このようなご相談をよくお受けします。
ここで非常に厄介なのが、相手が"善意の知人"であるために、「期待に応えたい」という気持ちが働き、無意識に事業のプラス面ばかりを見てしまう「確証バイアス」です。しかし、忘れてはならないのは、最終的にその事業の成功と失敗の全責任を負うのは、他の誰でもない、あなた自身だということです。
このような状況でこそ、対話型AIはあなたの冷静な「参謀」として真価を発揮します。AIに賛成・反対の両論、そして多角的な視点からシナリオを分析させることで、一度立ち止まり、客観的な視点を取り戻すことができるのです。
その上で、もし誘いを断るという決断をした場合でも、AIは役立ちます。相手との良好な関係を保ちながら、丁寧に断るための文面作成をサポートしてもらうことも可能です。これにより、人間関係のしがらみを気にすることなく、純粋に事業の是非を判断するという、本来あるべき意思決定に集中できるのです。
もちろん、対話型AIとのシミュレーションだけでは、まだ不安が残ることもあるでしょう。最終的な判断には専門家の客観的な意見も参考にしたい、とお考えでしたら、ぜひ当社にご相談ください。丁寧なヒアリングを通じて、あなたの想いに寄り添いながら、最適なアドバイスをさせていただきます。
結論
新規事業の誘いに対し、即座に「乗る」「乗らない」を判断するのは危険です。AIを活用して意図的に賛成意見と反対意見をシミュレーションすることは、経営者が陥りがちな「確証バイアス」を回避し、事業の成功確率を高めるための極めて有効な手法です。AIはあなたの意思決定を奪うものではなく、その質を飛躍的に高めるための強力な「思考の壁打ち相手」となります。次の大きな決断の前に、ぜひAIとの対話を取り入れてみてください。
参照元一覧
- 一般社団法人日本経営心理士協会「確証バイアス」 (2025年10月1日取得)
- 中小企業庁 2017年版「中小企業白書」第2部 第3章 新事業展開の促進 (2025年10月1日取得)
- Notta「【2025年版】AIに関する必須統計100選以上」 (2025年10月1日取得)